大阪地方裁判所 昭和53年(わ)2876号 判決
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【判旨】
(罪となるべき事実)
被告人は特に定まつた住居を持たず、各地の飯場を転々として大工仕事に従事しているものであるが、昭和五三年五月一六日より大阪市東区横堀二丁目四六番阪神高速道路下横堀公園で野宿をし、同所に集つてくる同じような境遇の者と酒を飲むなどしてなすこともなく日を送つていたところ、同年六月一〇日午前一時一〇分ころ、右公園において仲間の者と飲酒した際、以前胸を足蹴りされて肋骨骨折の傷害を負わされたことのある日雇人夫の井川勝行(当四〇年)から、酔余、又もや胸付近を蹴り上げられたため、自己の身体を防衛する目的で、その程度を超え、所携の電工ナイフ(刃体の長さ約8.1センチメートル、昭和五三年押第九一二号)で同人の顔面めがけて切りつけ、よつて同人に対し加療三週間を要する顔面、鼻部切創等の傷害を負わせたものである。
(証拠の標目)<省略>
(過剰防衛認定の理由について)
前記のとおり井川勝行が被告人の胸部を足蹴りした行為が刑法第三六条第一項所定の急迫不正の侵害に該当することは疑う余地がない、問題は被告人の防衛意思の存否であり、被告人の捜査官に対する各供述調書には被告人が右井川から胸を蹴られ立腹の余り所携の前示電工ナイフで右井川に切りつけた旨の記載がなされていることが認められる。しかして検察官は被告人が右井川に対し専ら胸を蹴られたことに対する報復の意図の下に本件犯行に及んだものであり、防衛意思はなかつた旨主張するのであるが、前記のとおり被告人は以前井川から胸部を足蹴りされて負傷したことがあり、同人に対する警戒の念を解いていなかつたこと、右井川から又も足蹴りされるや、直ちに前記電工ナイフで右井川に対し反撃行為に及んでいる点を勘案すると、被告人は右井川の前記足蹴行為に対し、自己の身体を防衛する意思で本件犯行に及んだものであり、同人に対する立腹ないし報復の念があつたことは否定できないものの、これは飽くまでも副次的なものであつたと考えられるから被告人の右反撃行為は正当防衛の程度を超えた過剰防衛行為と認むべく、その刑事責任はこれを軽減するのが相当である。
(平井和通)